休日の昼下がりのお気に入りのカフェ。仕事終わりのヨガスタジオ。いつか宿泊してみたい憧れのホテル……心地のいい空気が流れている場所には、いつもリラックスした雰囲気が漂い、自然と人が集っている。そんな居心地のいい場所をつくるためには、きっと、誰かのちょっとした心遣いや、日々の小さな工夫があるはず。私たちがシンパシーを感じ、心地のいい空気の流れる場所を訪ねて、心地よさの理由を伺います。
今回訪ねたのは、東京・馬喰町にあるクリエイティブカンパニー「Konel(コネル)」です。

代表取締役の出村さん。

キャンドルの炎をぼーっと見るようなデジタル製品を作りたい

いきなり直球の質問ですが、Konel ってどんな業務をされているんですか?

出村さん 2 年くらい前までは WEB 制作がメインでしたが、今はもっと幅広くて、映像、グラフィック、イベント、デバイスなど企業のマーケティングに関わる全般を手掛けています。一方で、クライアントワークとは別軸で、「欲望を、カタチに。(SHAPING DESIRE.)」というビジョンを掲げて、日常の中で浮かんだアイデアを、サービスや音楽、ファッション、デバイスとさまざまなアウトプットに落とし込みながら表現しています。社内でアイデアを練りながら、プロトタイプを作ったり、商品のコンセプトや名前を考えたりと、アートとテクノロジーの分野を駆使しながら、日々挑戦しているところです。多様な才能を持ったメンバーが集まっているので、企画から試作、検証までのスピードが速くて楽しいですね。

「欲望を、カタチに。」というビジョンはどういうきっかけで生まれたんですか?

出村さん 一緒に働く仲間を増やしたい時、自社を紹介するのに過去の実績やポートフォリオを見せるのはわかりやすい方法です。ただ、私たちは「今までにないこと」をカタチにしようとしているので、アーカイブだけで Konel を表現するのは限界がありました。それで、私たちの想いを一言で表現できる言葉として掲げるようにしました。

明文化することで意思が明確になりますね。今はどんなことをカタチにしようとされているのですか?

出村さん たとえば、電子キャンドルを 1 時間見続けるのは苦痛かもしれませんが、実際に火を灯したキャンドルなら、1 時間は言い過ぎだとしても、飽きずに見ていられませんか?

そうですね。たき火や海を眺めるのと同じような感覚で、ぼんやりと眺めていられる気がします。デジタル製品をいかにして自然現象に近づけるかを追求していらっしゃるのでしょうか?

出村さん 自然に近づけるというよりも、自然現象がインプットになっている家電なら、ずっと見ていられるはずだと仮説を立てています。家電って基本的には人間の指示ありきというか、人間がセットした状態に向かって、心地よさを追求していくモノですよね。

エアコンなんてまさにそうですね。室温を 25 度に設定したら、25 度になるよう室温を上げたり下げたりする。

出村さん そうなんです。AI やレコメンデーションエンジンも、最初に標準となるものをセットするのは人間です。そのセット自体を自然現象にするというアイデアから始まって開発しているのが、雷をリアルに表現する地球儀です。気象情報から世界中に落ちる雷を予測して、緯度・経度をマッピングしたガラス玉が、雷と同じ位置でバチバチっと光る製品です。予測できない動きをするので、実際のキャンドルをぼーっと見るように、ずっと見ていられるガラスのデジタル製品になるんじゃないかなとイメージしています。将来的には「自然現象をデジタルとして扱うなら Konel だよね」と言われる存在になりたいですね。

会社の設立時からそのような思いがおありだったんですか?

出村さん 自然現象に対して考え始めたのはここ数年ですが、今では会社のミッションを超えて、私の人生のテーマになりつつあります(笑)。会社設立のきっかけ自体は、前職で外資系のコンサルティング会社に勤めていたことの反動なんです。

反動というのはどういうことですか?

出村さん コンサルティング会社では、戦略を設計したり未来のビジョンを描いたりといった「左脳」的な業務が評価されていたので、「右脳」的なことを最前線のクリエイティブで表現したくて、学生時代からの友人だった荻野、宮田と一緒に WEB 制作会社を立ち上げました。会社名は「感触のあるモノを作りたい」「トライアンドエラーのできる仕事がしたい」という思いを突き詰める中で出てきた「こねる」という言葉が由来です。会社名は日本語ですが、グローバルな人たちと仕事をしたいという意味も込めてアルファベット表記にしています。

金沢やベトナムのオフィスともチャットやビデオ会議を通して日常的にコミュニケーションを取っている。
日々さまざまなアイデアが浮かぶと話す出村さん。最近注目しているのは上野動物園のシャンシャンの動きだそう

エンジニアがコピーライターを兼任することも多い

その意図どおり、Konel で働く方は非常に多国籍ですよね。

出村さん縁や巡り合わせも大きいですが、今は 6 か国くらいのメンバーが集まっていますね。Konel を一緒に立ち上げた荻野は、大学入学までオランダに住んでいたり、経済産業省のプログラムでベトナム人、インド人、インドネシア人のインターンシップを迎え入れたり……。といっても、センスがあって Konel に必要なスキルを持つ人に、外国人が多かっただけで、外国人を採用したかったわけではないです。

17 か国はすごいですね、何人の方が働いていらっしゃるんですか?

出村さん 全員で 27 人です。Konel だけで働いているのは 10 人くらいで、他はパラレルワーカーです。兼業 OK な大手企業にも所属しつつ、自分のやりたいことを実現するためにここで働いているメンバーもいます。忙しい会社にいるのに、まだやり足りないという血の気の多いメンバーですね(笑)。クリエイターが 9 割ですが、スキルを横断しているので、みんな名刺には 2 つ以上の肩書が書かれています。エンジニアがコピーを書くことも珍しくありません。

おもしろいですね。エンジニアが書いたほうがいい理由ってあるんですか?

出村さん Konel のエンジニアは音楽活動をしている者も多いのですが、音楽って 1 小節という最小単位の中で、いかに豊かな表現するか、プログラマイズされた世界でもあるので、エンジニアの仕事にも通じると思っています。さらに作詞もするなら、情緒的なことを短い文章で表現するのも得意なので、私はエンジニアにコピーライティングを依頼することが多いですね。

なるほど。エンジニアの方ってよく「きれいにコードを書く」という表現もされますよね。

出村さん 歌詞によって曲の伝わり方が全然違うように、同じプログラミングでも繊細な表現力が必要だと思います。
スキルを横断することで、イノベーションが起こりやすいですしね。まだ世の中にないモノを生み出したいという時は、なるべくコアな仲間で、職種によらず議論を交わし、試作を重ねたいのでなおさらです。「私はデザイナーなのでこの段階からしか入りません」というスタンスだと、予定調和な内容になりがちなので、マルチプレイヤーであることは会社としても歓迎しています。

ウッドデッキが敷かれた屋上はグリーンも植えられ、都心のオフィス街ながら開放的な雰囲気。作業の合間にここで気分転換をすることもあるそう。

Wi-Fi のない場所のほうが、仕事がはかどることもある

まさに “こねる” ですね。ところで、ここ(東京・馬喰町)のほかに、金沢・ベトナムにもオフィスがあるんですよね。

出村さん 実は、インターンシップで来ていたベトナム人のメンバーが帰国したのがベトナムに拠点を設けた理由です。 金沢も同じで、設立時のメンバーである宮田が、出身地の金沢に戻ったからです。一緒に働いていたメンバーと継続 して働くために、彼らの地元にオフィスを作っただけなんです。ですから、人とのつながりが先で、場所はその派生にすぎません。

どこで働くかより、誰と働くかが起点になっているんですね。出村さんの地元はどちらなんですか?

出村さん 私は宮田のいる金沢出身なので、地元という視点からはずらして、千葉や神奈川に新たなオフィスを構え るのもいいかなと思っています。都内へと向かう通勤ラッシュとは逆方向ですし、1 時間の移動中に座って仕事がで きたら、きっとはかどると思いませんか。たとえば飛行機の中ではあえて Wi-Fi につながず、企画を練ったり、メッセー ジを考えたりすると、すごくはかどるんですよ。そういう時間を通勤時間中に作ることができたら健康的ですし、仕事のリズムも作りやすいのかなと想像しています。

場所に制限されず働けるというのは今の時代に即していますね。

出村さん 1 か所にとどまっていると思考がパターン化してしまうリスクがあると思っています。同じアイデアでも、 景色が変わるとまったく違って見えることってありますよね。知人のクリエイターは、山手線を 1 周しながら企画を プランニングすることがあるそうです。渋谷駅の女子高生、東京駅のサラリーマン、巣鴨のおばあちゃん......駅を乗 り降りする人たちの顔を見ながら「自分の立てた企画は、誰に見てもらえるだろう」とイメージするそうです。これっ てまさに移動がもたらすメリットですよね。私にとってここのオフィスは、外でいろいろな刺激を受けて、思考をま とめるための場所でもあるので、ドアを開けた瞬間に、いい空気で満たされているのは大切だなと思っています。

オフィスの扉を開けた瞬間いい空気に満たされたい

いい空気であるために心掛けていることはありますか?

出村さん 実はここのオフィスは窓が少なくて、1 階は玄関の扉しか開かないので、風が通らないんです。あと、エ アコンのパワーが弱いのもあって夏場はけっこう蒸し暑くて......。でも、カドー除湿機を入れてからは、びっくりするくらい快適になったので、2 階にいたスタッフも、除湿機のある 1 階に降りてきて仕事をしています(笑)。

とそう言っていただけると、導入していただいた甲斐があります。カドー除湿機はタイヤが付いていて移動させやすいので、ぜひ 2 階でも使ってみてください(笑)。

ビル全体を Konel が管理し、シェア化している。1 階は貸会議室やギャラリースペースとしても使用できる

What’s
your place
with
good atmosphere?── あなたにとっての居心地のいい場所とは?

An “unexpected
non-harmonizable” place── 予定 “不” 調和なところです。

I like places where random things happen. I don’ t know if the word combination, “unexpected non-harmonizable” exists (lol), but I feel uncomfortable in places where only things that are expected happen because I feel I’ ll become weak. When something exceeds your expectation, I think that’ s when you become stimulated and surprised. So, I want to keep myself in a place that’ s constantly stimulating and continues to surprise me over and over. The Konel office is one of those places where I feel comfortable because everyone has different ideologies and it’ s always stimulating and surprising for me.

ランダムな事象が起こるところがいいですね。「予定 “不” 調和」という言葉があるのかはわかりませんが(笑)、予測どおりのことしか起こらない場所だと、自分が弱体化する気がして不快に感じます。自分の予想を上回ることが起き た時に、刺激や驚きが生まれると思うので、なるべく刺激が大きくて、驚く回数の多い場所に身を置いておきたいです。 Konelのオフィスは、いろんな考えを持つ人が行き交っていて、刺激や驚きも多いので、私にとっては居心地のいい場所のひとつです。

株式会社コネル(Konel)

“欲望を形に。/Shaping desire.”を合言葉に、デザインとテクノロジーのスキルを駆使して、アート、広告、プロダクト開発など様々なフィールドでの制作活動に取り組んでいる多国籍なクリエイティブカンパニー。

東京都中央区日本橋馬喰町 2-6-4 馬喰町 FACTORY
http://konel.jp/
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