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haruka nakamura

haruka nakamura(音楽家)

音楽家が大切にする
“空気のデザイン”をサポート

音楽家が大切にする
“空気のデザイン”をサポート

楽器や空間に寄り添い、調和すること

haruka nakamuraと待ち合わせたのは、代々木公園にも近い洋菓子店「MAISON DE CHARLOTTE」。ー昨年の冬、nakamuraはこの店で花屋西別府とのセッションを行った。その冬の日と同じように、店内にはnakamuraの奏でるピアノの音色が静かに響き渡っている。窓からは柔らかい陽光が差し込み、穏やかな午後の時間が流れている。青森で生まれたnakamuraが本格的な音楽活動を始めたのは06年。それ以降、東京のカテドラル聖マリア大聖堂や広島の世界平和記念聖堂など、多くの重要文化財で演奏会を開催してきた。コンサートホールのような音響設備の整った場所以外でも演奏をする機会も多く、音を鳴らす空間に対して常に注意を払っている。

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「ピアノの音って聴く人に対しては振動として伝わっていくわけですけど、場所によってその伝わり方はだいぶ変わるんです。ここ(MAISON DE CHARLOTTE)みたいに音響設備のない場所でやるときは、だいたいミュートピアノにしています。ピアノと弦の間に布を一枚入れることによって、音の振動が少なくなるんですね。なおかつピアノのソフトペダルを踏むことで、すごく微弱な音になる。そういう小さな音から始めることによって、人の耳ってだんだん開いていくんです。そうすると、小さな音でも十分大きく聴こえるし、そこでダイナミクスと深さを生み出すことができる。いきなり大きい音で鳴ると、聴く人のなかで驚きと刺激はあるんだけど、受動的に音を受け入れる側になるんですね。そうではなく、人間の耳が主体的にその音を掴みにいくような感覚を作るんです」

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ピアノという楽器の難しさは、ギターやサックスのように自分自身の楽器を自由に持ち込めないところにもある。特別なケースでもないかぎり、多くの場合は会場に設置されたピアノで演奏をしなくてはいけないわけだが、nakamuraはそこにピアノという楽器の魅力を見い出している。「会場のピアノと仲良くするというのが大前提なんですよね。たとえば、(手元のピアノを爪弾きながら)このピアノはすごく優しく鳴ってくれる子で、ドからこっちはあまりミュートが効かないんですね。それがまたお もしろくて」

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クセのある楽器を自分の力で強引にねじ伏せるのではなく、その個性に寄り添い、調和する。ピアノに対するそうした考えは、演奏会場の空間に関するnakamuraの意識とも共通している。 「完全に無音のホールでやるほうが僕は少なくて、外からの音がちょっと聴こえてくるぐらいの場所のほうが好きなんですよ。鳥の声や車の音が聴こえてくるような場所は珍しくないけど、そういう音が音楽の一部として聴こえてくる様になると、とてもいい状態なんです」

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風の心地よさが刻み込まれた音

現在nakamuraの制作拠点となっているのが、nakamuraとのユニット、orbeでも活動する田辺玄主宰のスタジオ「studio camel house」(山梨県甲府市)。高台にあるそのスタジオには大きな窓があり、そこからは甲府盆地と富士山が一望できるという。音楽を創作するうえでは最高の環境だ。「studio camel houseはいつも山や森を見ながら作品を作っているような感じなんですよ。時間の経過もわからない地下のスタジオでこもって制作するのとは、だいぶ感覚が違いますよね。風の流れや太陽の位置もわかるから、その日の加減に合わせて録る曲を変えることもできる。今日はいい天気だからこの曲を録 ろう、みたいに」
 そうした環境のもと録音されたnakamuraの音のなかには、確かに甲府盆地を吹き抜ける風の心地よさや日光の暖かさが記録されている。

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「本当はね、風通しがいい場所でやりたいもんですけど、音響的なこともあるからスタジオの扉を開けっぱなしにするわけにもいかない。そのぶん、中の空気はできるだけ気持ちいい状態であってほしいなとは思いますね。実際に窓を開けられないとしても、風通しよく感じられる空間にはしたい」 ――そう話すnakamuraは、スタジオ内の空気環境に対しても常に意識しているという。「僕、埃アレルギーなんですよ。空気が悪い場所だとずっと鼻をかんでいないといけなくて。そうすると、音楽に集中できないんですよ。歌を歌う人たちはみんな喉のことに気を使ってますね。空気のこともあるし、たとえば標高がちょっと高い場所だと息が続かなくなったり。身体のことだから、すごく難しいんです」

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音楽を演奏し、聴くことと「祈り」

nakamuraは現在自宅で空気清浄機「LEAF 320i」を使用している。旅をすることが多いので、導入したのは意外にもつい最近のことだと話す。 「この機種を使う前まで、自宅に空気清浄機がなかったんですよ。鼻炎がひどいので、ものすごく助かりましたし、症状がだいぶ改善されました。studio camel houseの玄にcadoのことを話したら知ってましたね。『あそこの空気清浄機、いいみたいだね』って。スタジオをやってる人って空気環境にも目が向いてるので、空気清浄機に関してもいろいろ調べているみたいで」cadoは「空気をデザインする」という企業哲学を持つが、nakamuraが演奏会やレコーディングで試みていることもまた、「空気をデザインする」ことでもあるだろう。

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「僕は日常的に教会に行っているんですけど、夕方にひとりで教会に行くと、外の世界と違う静かな空気が流れていて、まったく違うモードになれる。場に祈りの思いが蓄積している感じがするんですよね。教会で演奏することも多いんですが、教会の場合は空間作りから考えるんですよ。照明はほとんどつけない。SEもMCもなく、最初から最後までほぼ即興。教会ってお祈りする場所ですけど、音楽を演奏することも祈りに近いと思っていて。なおかつ音楽を聴くという行為もまた、祈りに近いものであって欲しい」

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パンデミックによってnakamuraの活動も大きな影響を受けた。だがそんなコロナ禍の日々にも少しずつ明るい兆しが見え始めたようだ。 「コロナ以前は毎週ライヴをやっていて、日本中旅していたんですよ。この1年間はライヴができなくなってしまったので、studio camel houseでずっと制作していたんですね。でも、冬にかけてだんだんライヴをやれる見込みが出てきたので、ようやく次のフェイズに入れそうで」

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 日々の暮らしにじんわりと滲むような音楽作りを続けているnakamura。彼は「音楽って日常的に作ってるものだから、気持ち的に風通しのいい場所で作りたいんですよね」とも話す。年内には新しい作品の発表も控えているようで、私たちの暮らしに新たな風を吹き込んでくれそうだ。

Text:Hajime Oishi
Photo:Rikiya Nakamura

※こちらの内容はサウンターマガジンVol.4にに掲載された記事です

窪川 勝哉|Katsuya Kubokawa
haruka nakamura

ソロ名義の他、様々なユニットで多数オリジナルアルバムを発表。東京・カテドラル聖マリア大聖堂、広島・世界平和記念聖堂、野崎島・野首天主堂を始めとする、多くの重要文化財にて演奏会を開催。近年は、杉本博司「江之浦測候所」のオープニング特別映像、国立新美術館「カルティエ時の結晶」安藤忠雄「次世代へ告ぐ」などの音楽を担当。京都・清水寺成就院よりピアノ演奏をライブ配信。東京スカイツリー、池袋サンシャインなどのプラネタリウム劇伴音楽を担当。harukanakamura.com

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