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KAZUTO KOBAYASHI

小林和人

暮らしをかたちづくる
“Timeless, Self-evident”な道具たち

暮らしをかたちづくる
“Timeless, Self-evident”な道具たち

日々、手に触れたり、目にする生活道具は、私たちの暮らしをかたちづくる重要な要素。「空気をデザインする生活道具とはどんなものですか?」。国内外の様々な生活用品を扱うOUTBOUND(吉祥寺)とRoundabout(代々木上原)の店主である小林和人さんに問いかけた。独特の審美眼をもつ小林さんが手にした5つの品々から、もの選びの哲学をひも解く。

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機能と作用

「暮らしの空気をデザインする生活道具を選んでください」。

OUTBOUNDとRoundaboutの店主である小林和人さんにそうお願いをしたら、5つの品を用意してくれた。目の前に並んだものを見て、すぐに用途の想像がついたものはテープカッターのみ。果たして、それらはどのような意図で選ばれたのだろうか。

「ものには2つの役割があると思うんです。ひとつは目に見える具体的な『機能』。もうひとつは眼に見えない抽象的な『作用』です」と小林さんは切り出した。

小林和人|KAZUTO KOBAYASHI
小林和人 | KAZUTO KOBAYASHI

1975年、東京都生まれ。幼少期をオーストラリアとシンガポールで過ごす。 多摩美術大学卒業後、吉祥寺で国内外の生活道具を扱う店 Roundaboutをオープン(現在は代々木上原に移転)。 2008年にOUTBOUNDを出店。 両店舗の商品のセレクトと店内のディスプレイ、年に十数回開催される店内での展覧会の企画を手掛ける。 著書に『あたらしい日用品』(マイナビ)がある。
OUTBOUND http://outbound.to/
Roundabout http://roundabout.to/
Instagram @kazutokobayashi

機能とは、ある目的を遂行するための物理的な補助。小林さんはこの機能に加えて、使い手に情緒的な反応を引き起こすはたらきが「作用」であるという。

2013年から自身のお店で「作用」展なるものを開催し、作用の意味を問い続けている。

「同じものであっても、そこから受ける作用は個人差があると思いますが、私は『こう使いなさい』と誘導された用途だけではない、何かを投影する“余白”に目を向けるということも重要だと思います」

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投影するものが違えば、当然反射するものは違ってくる。どこに置かれ、どのように扱われるかという、使い手とものとの関係性によって、ものは様々な側面を帯びてくるのだと。

「この熊谷幸治さんの土器も、人によっては漬物の壺かもしれないし、ある人にとっては花を生ける花器かもしれない。でも、私にとっては鍋なんですよね。土器は直火にかけられるから、これでご飯を炊いたりします。その前は、ビールジョッキとして使ってましたけど(笑)」

一方で、手にしたものをどう使うかという見立てだけではなく、その余白をただ味わうということも、物との豊かな関係なのではないかと小林さんは土器を手にしながら話す。
「福井守さんの木の作品は、いわば余白の塊みたいなものですよね。でも、無理やり使い方や意味など考えずに、時にはそこから離れて自由になることも大事なのだと思います」

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抽象的な造形物というと美術史的な文脈やコンセプトが明確でないと存在意義がないと見なされがちなのかもしれないですが、美術という概念が生まれる以前からのものづくりである古代人の石棒や、あるいは子供時代につくった泥団子の延長のような捉え方があってもいいのではないかという思いを小林さんは抱いている。

「E&Yの『edition HORIZONTAL』というコレクションラインのひとつである、林洋介さんによる『yours』は、一見すると何も印刷されていないポスターのようですが、実は紙に香料が染み込ませてあって、ちぎって燃やすとお香にもなり得るのです」

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機能ありきではなく、触覚や嗅覚を通して訴えかけてくるようなメッセージと共に、それを手にした使い手それぞれとの関わり方を受容する多くの余白が残された、まさに機能と作用が呼応し合うプロダクトと言えるかもしれない。

人は機能だけでは生きられない

なぜ、ここまで作用にこだわるのだろうか。

「効率や利便性を追求していくと、最終的には落としても割れないメラミン食器やペットボトルしか残らなくなってしまうかもしれない。もちろん、それで満たされる人もいるかもしれませんが、豊かな暮らしとは、いかに重層的で、多様なもののなかから選べる自由があることなのではないでしょうか」

ひとつのものに流れる幾層もの時間と、機能だけでは語り尽くせない“作用”に耳を澄ますことが豊かさではないか。それは言い換えれば、物質的、機能的に充実していることが、必ずしも豊かさではないということなのかもしれない。

だが、小林さんがものに興味をもったきっかけは、どちらかといえば機能主義的な意味合いをもつ工業製品からだったという。

「中学生のころに工業デザイナーのルイジ・コラーニの作品集を見て、デザイナーという職業があることを知りました。そうしたものづくりにかかわりたいと思ったのが、いまの仕事の原点かもしれません」

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その後、美術大学を卒業後に店を構え、もの選びをしているうちに、工業製品の同一規格で反復的な心地よさを感じる一方で、一つひとつにゆらぎを感じる手仕事の品にも興味をもつようになっていった。

インゲヤード・ローマンがデザインした「SKRUF」のピッチャーはまさに、
工業製品と手仕事の品が決して乖離してはおらず、グラデーションで繋がっている地続きの関係だという考えを象徴しているかもしれない。

「工業製品のような佇まいですが、一つひとつに手仕事の揺らぎが感じられます。普段は花を活けることもあれば、何も入れずにそのまま飾ることもあります」

Timeless, Self-evident

美術予備校に通っていたころ、デッサンの授業のたびに、講師からは全体から細部に入るとバランスが取りやすいとアドバイスを受けたという小林さん。

「わたしはどうも細部から見てしまう癖があるようですね(笑)。ものの魅力は、置かれている空間との関係性が大きく影響するといわれますが、その逆に、置かれたものが空間の魅力を形成するということもあるのではないかと思います」

部分の集積が空間の空気を変えてくれるものとして、挙げてくれたのがババクーリのテープカッターだった。このテープカッターを起点に、同ブランドのさまざまなプロダクトの展開が広がっていったというストーリーに惹かれて手に取ったそうだ。

「例えば、デスクの上のものがひとつ変わるだけで、そこ(部分)から波及して全体が変わっていく。それはまた、ものが空間にもたらす作用といえるのではないでしょうか」

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今回、小林さんが選んだものは、素材も形、用途もさまざまだ。しかし、総じて時代に対しての強度があること、そして素材や形の必然性を自ら証明していることは共通している。

「インゲヤード・ローマンが自らのデザインについて"I am always looking for designs which are timeless and could be called self-evident, but are nevertheless difficult to create"と述べています。実は、以前に出版した本のサブタイトルに冠した"Timeless, Self-evident"という一節は、彼女の発言が元になっています。わたしのもの選びはこの言葉に集約されるのだと思います」

Timeless, Self-evident──。最終的に手元に残り、暮らしの空気を整えてくれるのは、そういうものなのかもしれない。

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OUTBOUND

東京都武蔵野市吉祥寺本町2-7-4-101
0422-27-7720

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