休日の昼下がりのお気に入りのカフェ。仕事終わりのヨガスタジオ。いつか宿泊してみたい憧れのホテル……心地のいい空気が流れている場所には、いつもリラックスした雰囲気が漂い、自然と人が集っている。そんな居心地のいい場所をつくるためには、きっと、誰かのちょっとした心遣いや、日々の小さな工夫があるはず。私たちがシンパシーを感じる、空気のデザインされた場所を訪ねて、その心地よさの理由を探ります。
今回訪ねたのは、東京・銀座の美容室「KOLOR(カラー)」です。

KOLOR(カラー)代表の有間清貴さん。
KOLOR(カラー)代表の有間清貴さん。

放浪していたニューヨークで出会った美容室が原点

ビルの3階にある美容室って珍しいですね。扉を開けるのに少しドキドキしました。

有間さん 看板も出していませんしね。おもしろいお店にしたくて、外と中のギャップを大切にしました。恐る恐る扉を開けたら、居心地のいい空間が広がって、安心して身を任せられるような雰囲気を作れていたらいいなと。

まさに! 扉を開けた瞬間、ふわっと柔らかい空気で迎え入れられている気がして心がほぐれました。何かお手本にしたお店やイメージはあったのですか?

有間さん お店の構想を練っていた時に思い浮かんだのは、ニューヨークにある美容室です。美容学校を卒業した後、放浪の旅をしながら1年くらいニューヨークに住んでいたのですが、知り合いの紹介でミッドタウンの路地裏の雑居ビルにある美容室を訪れたことがありました。自宅を兼ねたお店で、シンプルだけど居心地がよくて、すごくセンスがよかったんです。美容師仲間とシェアできるように4席くらいあったのを覚えています。それを見て「こんなかっこいいやり方があるんだ!」と強く衝撃を受けました。今振り返ると、20歳前後の多感な時期に見たのも影響が大きかったでしょうね。帰国後、美容師になって、大手サロンに所属したり、フリーランスとして働いたりしてキャリアを積んで、いよいよ独立しようとお店のイメージを膨らませていた時にふっとあの美容室のことが思い浮かびました。

ミッドタウンといえばニューヨークのど真ん中ですよね。

有間さん そうですね。東京でいうと銀座がミッドタウンの雰囲気に近いように思います。銀座の路地裏や雑居ビルの中に、自分がかっこいいと思うモノ集めた隠れ家的なプライベートサロンを開きたくて、この場所を選びました。

意外な立地にはそういう思いがあったのですね。

窓からさんさんと陽が差し込み明るい雰囲気。出社したらまずカドー加湿器のスイッチを入れるそう。


シャンプー台は天井が低く、寝た時に落ち着くよう考えられている。施術中に寝てしまう人もいるとか。

いろいろな人が集まるのは銀座の魅力のひとつ

わかる気がします。それが、それぞれの街のカラーというか、特徴にもなっていますよね。

有間さん一方で、銀座は世代も幅広いし、趣味嗜好もさまざまなんです。服装だけをとっても、ハイファッションな方もいれば、ファッションに全く興味のない方もいますし、うちの美容室はオーガニックをコンセプトにしているので、ナチュラルテイストなお客様が多いです。身につけるもの素材や、食べるものなどにこだわりを持ち、暮らしの一つ一つを大切にと考えていられるような。

そういう多様性もニューヨークに通じる気がしますね。

有間さん 店名の「KOLOR」はポーランド語で「色」という意味ですが、私自身は「多種多様」という意味合いで捉えています。単純に言葉の響きや文字の並びも好きですが、自分の色を持ったお客さんが、ここを訪れることでその人らしい色をさらに輝かせたり、新しい魅力を引き出したりするお手伝いができたらという思いを込めて名付けました。

なるほど。オーガニックって髪に優しそうなイメージがありますが、どんな特徴があるのですか?

有間さん たとえばカラーリングはオーガニックカラーにこだわっています。ちょっとマニアックな話ですが、日本のカラー剤に入っている染色剤は、ヨーロッパでは使用基準を満たしていないモノが含まれていることもあるんです。アジア人は黒髪が多いので明るい髪色にしたいなら強い染色剤を使う必要がありますが、実はヨーロッパでは使用禁止な国もあるくらい、人体に影響があるとも言われていて。そういう状況を知るうちにKOLORではオーガニックにこだわりたいという思いが強くなりました。いろいろな製品を調べ尽くした結果、一番原材料に納得できたイタリアのブランドのカラー剤を採用しました。自社農場で有機栽培している植物が原料の92%を占めるカラー剤で、髪にも頭皮にも優しいんです。

染色剤のことまで考えてカラーリングをしたことがなかったです。

有間さん そういう方がほとんどだと思います。ただ、発色よりも髪や地肌に良いものを選びたいという人はいらっしゃるので、支持をしていただけているのかなと。私自身も身体に良いものを使いたいので、シャンプーやヘアオイル、バームなども天然素材100%の製品を使っています。香りもいいとお客様からも好評です。

シンプルだけど温かみのあるモノが好き

お店に入った時もとてもいい香りがしました。何か気を配っていらっしゃるんですか?

有間さん 「香りも癒し」というのをコンセプトにしているので、朝、エアコンのフィルターにルームフレグランスをかけて少しずつ香りが拡散するようにしています。

そういう使い方があるんですね。香り方が自然で素敵です。他にはどんなコンセプトがあるのですか?

有間さん 居心地のよさは大切にしました。受付スペースは照明を最小限に抑えて、落ち着いた雰囲気にしています。店内奥の施術スペースは、大きな窓から自然光をたっぷりと取り入れて明るさを意識しました。

お店の外と中だけじゃなくて、店内も手前と奥でコントラストがあるんですね。

有間さん 全体的にはグレーと白を基調にした無機質な空間ですが、冷たい雰囲気になりすぎないようには気をつけました。お客様に出すほうじ茶を淹れる器や、Taguchiの木製スピーカーなど、どこか温かみのある小物の選び方や置き方でアクセントをつけています。

片山正通氏がデザインしたLIM seriesの美容椅子。長時間座っても疲れにくいようこだわって選んだという。

カドーの加湿器は素早く潤うところもお気に入り

カドーの加湿器を選んでくださった理由もそこですか??

有間さん アートディレクターをしている友人に「お店が乾燥するからかっこいい加湿器知らない?」って聞いたら「これしかないよ!」って教えてくれたんです。

それはありがたいアドバイスです(笑)。美容室で乾燥は大敵ですもんね。?

有間さん デザインも気に入っていますが、素早く潤うのもいいですね。スイッチを入れたらすぐに部屋が潤っていく感覚があります。

お茶を淹れる器にまで気を配っているのですね。?

有間さん 実は、KOLORをオープンする直前まで、器のオンラインショップやポップアップショップを運営していたので、今も繋がりのある作家さんの器を使っているんです。ゆくゆくは店内で販売するのもいいかなと思っています。

クリエイティブに広がる仕事と人とのつながり

そうだったんですね!意外な経歴に驚きました。?

有間さん もともと器が好きなのもあって、最初は趣味で買い集めていたのですが、そのうち全国の窯元を回るようになりまして。気になる作家さんがいると、九州の山奥でもレンタカーに乗って会いに行っていました(笑)。そうして出会った作家さんと会話をしていると「この人の器には魂を感じる」「この人の器は本当に好きだな」とシンパシーを感じる方もいて。そういう器を少しずつ買い付けをしてECサイトで販売するようになって、最終的には十数名の作家さんの器を扱うようになりました。

美容師として働きながら運営されていたのですか??

有間さん はい、このお店をオープンする直前まで、5年くらいやっていました。サイトのデザインも自分でしていたんです。

いろいろなご経験がおありなんですね。何か共通点ってありますか??

有間さん クリエイティブな仕事が多いので、ひとつひとつの経験が、美容師としてのアイデアや技術の幅を広げることにつながっていると感じます。器のECサイトの運営にしても、サイトのデザインをしたり、器を売ったりすること以上に、作家の方たちと直接会って話したことのほうが勉強になりました。というのも、器を作るのってすごくクリエイティブな仕事なんですよね。描いてはそぎ落とす作業を何十回と繰り返し、最終的に粘土や土から形にする。その創造力はすごくリスペクトしていますし、熱量のある作家さんの作品はやっぱり素晴らしくて。そうした彼らの仕事ぶりを間近で見て、細部のこだわりについて話を聞いていると、私たちがヘアカットの時に襟足の処理や丸みのライン、高さをどう作るかといった技術や感覚と共通するものがあって刺激を受けました。

なるほど。そうしたご経験が、美容師さんとしての技術だけでなく、お店のモノ選びのセンスにも活きていらっしゃるように思います。?

有間さん どこかに所属して勤めていると、何かしらの条件があるものですが、今はそのストレスがまったくないので、モノ選びひとつをとっても楽しいです。銀座には300件くらい美容室があるのですが、そんな中で看板もない私たちのお店を訪ねてくださるのはありがたいですし、オーガニックカラーやヘッドスパなどメニューにも個性を出して、リスペクトしあえるスタッフと一緒にこのサロンを盛り上げていきたいですね。

カラー剤にも使っている自然由来成分にこだわったヘアケア剤やスタイリング剤も販売。

What’s
your place
with
good atmosphere?── あなたにとっての居心地のいい場所とは?

Where I Shift My Mind── スイッチを切り替えられるところ

The living room in “my place.” The “hair salon.” My father’s “old folk house” in Gunma prefecture. It is impossible for me to pick one place. “My place” is where I spend time with my family and “hair salon” is where I work. “Old fold house” lets me get along with the nature and get relax. All of these places have its own unique comforts. I try to shift my mind when I change my location. For me, it is very important thing.

「自宅」の居間。この「美容室」。群馬の山中にある父の「古民家」……1か所には限定できません(笑)。「自宅」は家族と過ごす場所ですし、「美容室」は仕事場、「古民家」は自然に触れながらぼーっと過ごす場所、それぞれ表情の異なる居心地のよさがあります。場所を変えて気分を切り替えることが、私にとっては大切なのかもしれません。

KOLOR(カラー)

KOLOR(カラー)

銀座の裏通りにある隠れ家のような美容サロン。ヘアカットはもちろん、オーガニックのカラー剤「ヴィラ・ロドラ」を使ったカラーリングや、自律神経のバランスに着目した「ピトレティカ整体ヘッド」などのメニューにもファンが多い。
東京都中央区銀座7-12-5 銀星ビル3F
https://kolor-hair.com
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