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TSUYOSHI YANAGIMOTO

鈴木健(cadoクリエイティブディレクター) ×
柳本剛(ヘアサロンLily 代表)

心まで豊かにする
ヘアアイロンが生まれた。

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心まで豊かにするヘアアイロンが生まれた。

心まで豊かにする
ヘアアイロンが生まれた。

美容の目的とは、美しさの追求だけではない。悩みの解消もまた大切な目的だ。髪にまつわる悩みの中で、近年、注目を集めているのが「縮毛矯正」である。美容家電ブランド「カドークオーラ」では、美容業界の先鋭企業である「株式会社ビューティーガレージ」と縮毛矯正のスペシャリストである美容師、柳本剛さん(Lily代表)とのパートナーシップにより画期的なヘアアイロン「BI-G1」を開発した。その開発秘話を、柳本氏とcadoクリエイティブディレクターである鈴木健とで語り合った。

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縮毛矯正が抱える大きな問題点

――美容機器ブランドである「カドークオーラ」では、Pフォルムと呼ばれる鼻のない形のヘアドライヤー「BD-E1」を2018年に発売し、高い評価を受けている。そして次なる美容家電として選んだのが、ヘアサロンでもよく使われるヘアアイロンだった。

鈴木 健(以下、鈴木)  このプロジェクトがスタートしたのは、2019年の5月。これまでに作ったことがない商品ですから、縮毛矯正のエキスパートとしてメディアにも多く登場していた柳本さんに協力を依頼しました。

柳本 剛(以下、柳本) 僕は東京・表参道で、くせ毛カットや縮毛矯正、髪質改善に特化したヘアサロン「Lily」を経営しています。ヘアアイロンはよく使う道具なので、そこにデザインに強いカドーが参入するのはとても興味深かった。カドーの製品は以前から好きで、加湿器などを愛用していましたから、どういう製品ができるのだろうか? という期待感もありました。

鈴木 まずは柳本さんから、ヘアアイロンをとりまく現状や不満を吸い上げました。それが予想以上に多かったのですが、とにかく、なるほどと思うものばかりだった。

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柳本  ヘアアイロンは、くせ毛や縮毛矯正といった悩みやコンプレックスの解決のために用いられることが多い道具です。そして縮毛矯正は、全ての工程が失敗できないリスクの高い施術で、美容師の技術の中で最も難しいとされています。机上の理論だけではなく、経験がものをいう技術だからこそ、美容師が作業しやすい環境を整える必要があると思っていました。くせ毛を伸ばすための薬剤は、かなり進化しています。さらに縮毛矯正を得意とするサロンがSNSなどで情報を発信しているので、これまで以上に技術を学びやすい環境になっているのは事実です。ところが肝心のヘアアイロンが、ほとんど進化していないのです。

鈴木  私たちは、ヘアアイロンに関しては“素人”ですから、全ての話が新鮮でした。正直言って柳本さんの協力が無ければ、商品化は無理だったと思います。大袈裟じゃなく。

柳本  僕にとってもやりがいのあるプロジェクトでした。現場で使われているヘアアイロンのブランドは、僕が美容師を始めた約15年前から変わっていませんし、形状なども進化がほとんどない。そもそもヘアアイロンに関する情報が少なくて、何を使えばよいのかが分かりにくい。そのため先輩やサロンで使っていたものを、そのまま選ぶことが多いのです。しかしそれが自分に合っているかは別の話ですから。

鈴木  現状のヘアアイロンに対する不満が、かなりあったようですね。

柳本  施術していていつも思っていたのは、「もっと髪の根元を攻めたい」ということでした。しかし使っていたヘアアイロンは、その構造上、ギリギリまでやるのはほぼ不可能なのです。また施術は長時間に及ぶので、持ちやすさや取り回しやすさも含め、どうしても不満が出てくる。縮毛矯正にこだわりのある美容師は、ヘアアイロンを使いやすくためにカスタマイズすることもありますからね。

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鈴木  縮毛矯正のための道具であるべきヘアアイロンが、逆にボトルネックになってしまっていたわけですね。

柳本  縮毛矯正に悩んでいる人は少なくないのですが、美容師の技術不足による失敗で、さらに悩みを抱えてしまった人もいる。ミスのできないリスキーな施術だからこそ、薬剤だけでなくヘアアイロンも同様に進化すれば、失敗も少なくなるでしょう。それは美容師にとっても、お客さんにとっても大きなメリットになるはずです。

鈴木  今回、柳本さんと仕事をしていて、もっとも驚いたのは“言葉を持っている”ということでした。美容師の方と仕事をするのも始めてのことでしたが、美を表現するプロは“感性ありき”だと思っていました。しかし柳本さんは、現状のヘアアイロンの問題点をすぐに言葉で明確化してくれた。だからデザイン面でやるべきこと、技術面でクリアすることがすぐに理解ができました。

明確なプロの言葉が開発のヒントになる

――カドーではこれまで、いわゆる一般向けの製品を作ってきた。幅広いターゲットに向けて商品と作るナショナルブランドと比べれば想定ターゲットを絞り込んでいるが、それでも広めのユーザー層を意識した商品開発を心掛けている。しかしヘアアイロン「BI-G1」は、プロの美容師から認められなければいけない。

鈴木  まずは柳本さんを納得させるものを作るという明確な目標がありました。しかしそれはすなわち「これくらいで大丈夫だろう」というざっくりとした妥協点がないということでもある。クリアすべき課題は明確なのですが、そのかわりに逃げ場がないのが大変でしたね。

柳本  それこそ試作品まで進んだ状態から、改めてゼロから作り直してもらったこともありましたね。その試作品のデザインは良かったのですが、先端が細くて手元が太くなるという設計だと手への収まりが悪いんです。

鈴木  きちんと使える試作品でしたが、どこに不備があるのかを明確に指摘してくれたので改善点が見えるし、すぐに次のステップに進めました。「BI-G1」は、あくまでも“プロの道具”でなければいけませんから。

柳本  そういう本気が伝わってきたのも嬉しかったですね。僕が最も強くこだわった、髪の根元まで攻められるヘアアイロンという希望に対しても、きちんと対応していただきました。

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鈴木  髪の根元をギリギリまで攻めるには、先端の施術部と熱が入るプレート部のクリアランスが重要になります。プレート部と施術部がほとんど同じサイズでなければいけないし、施術部はかなり薄くしたいという要望もありましたね。

柳本  「BI-G1」は、施術部とプレートがほとんど同サイズ。縁までのクリアランスは、1㎜もないんじゃないでしょうか。それくらいギリギリまで、プレートを広げてもらいました。

鈴木  プレート素材の開発も難しかったですね。プレートには髪に優しいなめらかな滑りと縮毛矯正に必要な適度 なテンションが求められます。プロトタイプではこの要求を満足するためにアル ミプレートの表面に特 殊なテフロンシートを貼り付けていました。その結果非常に滑らかな滑りは実現出来たのですが、柳本さんからすぐにダメ出しが入りましたね。

柳本  プレートの表面に素材を貼ると、どうしても温度にムラが出てしまうんですよ。

鈴木  そこでフッ素樹脂をコーティングする 方法にしました。なめらかな滑りと適度なテンションを両立する為に異なる配合のフッ素樹脂を4種類用意し、最適な条件を追求しました。また、プレート自体も何回も試作しましたね。プレートに刻む溝の理想形を見つけるのも苦心しました。

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柳本  プレートがフラットなタイプのヘアアイロンが多いのですが、この場合は自分でアイロンを細かく動かしながらテンションをかける必要があった。プレートでも溝があるとくせ毛のうねりを溝の凹凸が上手く拾って、髪を解いてくれるので、そういう小技は不要になる。いろいろ検討した結果、溝は3本にしました。

鈴木  しかも、溝があると水蒸気のコントロールも容易になるので、頭皮に負担なく生え際まで攻めることができるようになるんですよね。さらに髪への圧力を考え、プレート部が沈むサスペンション機構にしました。その沈み方にもこだわり、片側のプレートだけが沈むようにしています。

柳本  既存品でもプレートが沈むタイプはあるのですが、ここまで薄いものはないでしょう。この薄さのおかげで、髪の根元まで攻められるのです。

鈴木  温度コントロールの速さも、柳本さんからのリクエストでした。素早く180℃という適温に上がり、施術時に温度が下がったとしても、すぐにまた180℃に戻ることを意識しました。その実現の為に、当初は温度帯域別に複数個のセンサーを用い試験しましたが、思ったような結果は得られませんでした。その後検討を重ね最終的には独自のデジタル制御に温度センサーを組み合わせたデュアル制御方式を採用することでようやく期待通りの結果を実現できたのです。こうして出来上がった試作品を柳本さんに使っていただき、フィードバックをもらって改良する。その繰り返しでしたね。

柳本  試作品のテストは、自分のお客さんの頭髪で行いました。もちろん開発中のヘアアイロンを使うことはきちんと説明していますし、自分の技術と経験であれば大きなミスになることはないとわかっていましたから。しかしなによりも、新しい技術だからこそ、リアルな状況で試したい。それくらい本気で取り組みました。

“プロの道具”としてのデザイン

――プロの的確な意見を吸い上げることで、ヘアアイロンとしての機能は実現したとしても、そこにカドーらしい美しいデザインが加わらなければ意味がない。「BI-G1」は、機能性とデザイン性の融合から生まれた、これまでにないヘアアイロンである。

鈴木  今回は開発プロセスの一つ一つは、これまでの商品はおろか、カドークオーラのドライヤーとも全く違いましたね。そもそも製品を作る側と販売する側で、異なる意見が出るのは当然ですが、今回はさらに製品を使うプロの意見もすり合わせなければいけない。しかしその結果、レベルの高いモノ作りが実現できたと思います。

柳本  僕が望んでいた通り、髪の根元が攻めやすいプレートになっていましたし、施術部が薄いので取り回しも良くなり、耳の後ろやもみあげまわりといった難しい場所も攻めやすくなった。また、本体の余分な肉を削り落とすことで、既存品に対しプレートの全体に占める割合が増えたこともポイントですね。これにより作業効率が更に良くなりました。しかもかなり軽いんですよ。

鈴木  既存品よりも、100g以上は軽くしました。そしてプロ仕様モデルではコードの長さも3.5mと、一般ユーザー向けよりも1m以上長くしています。もしも柳本さんがいなければ、既存品を参考にして「このくらいかな?」と雰囲気で仕様を決めていたでしょう。しかし柳本さんは曖昧な言葉ではなく、なぜこれだけの軽さが必要なのか、なぜこれだけの長さのコードが欲しいのかという明確な答えがある。ベンチマークする製品を見据えつつ、そこにプロの意見を掛け合わせることで、ヘアアイロンという初めての製品でありながら、目標以上のゴールにたどり着けました。柳本さんの言葉があったからこそです。

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柳本  日ごろから理想を考えているから、明確な言葉になったのかもしれませんね。しかし僕にとっても、縮毛矯正に関するたくさんのモヤモヤが解決されました。

鈴木  機能面は満足していただけましたが、デザインはどうでしたか?

柳本  これだけの機能を持ちながら、しっかりとデザイン性を両立させるのは、相当難しかったんじゃないですか? 機能優先だと野暮ったく見えがちですから、うまくまとめたなぁという印象です。シンプルでありつつ存在感があり、気取らないカッコよさがカドーらしさだと思っていますが、それが見事に具体化しています。

鈴木  ありがとうございます。一般的な製品は、売り場で目立つためのデザインも求められるでしょう。しかし今回は、ヘアサロンなどでプロの美容師の方も使用する商品であり、“プロ用の道具”として成立させたかった。美容師さんの道具ってかっこいいじゃないですか。ハサミとか革のポーチとか。そういう世界の中に入っても成立するデザインにしたかった。求められる性能や使い勝手を、綺麗なデザインにまとめるための要求は、これまで開発してきた商品の3倍くらいはあったかもしれません。

柳本  おかげで、スタッフからも好評です。

鈴木  それは嬉しいですね。カドーには、「(技術と美しさ)×心」という方程式があります。魅力的な商品を作るには、美しいデザインと優れた技術が不可欠です。それがヘアアイロン「BI-G1」でも十分に実現できました。さらに今回は「×心」の部分もすんなりハマった。シンプルでいいモノは、えてして簡素になりがちですが、カドーの製品は空間の華になる。目立つだけじゃなく、いい空気感を作ってくれるものモノでありたい。このヘアアイロンがドレッシングルームや洗面台に置いてあるだけでも、そこに華を添えてくれると思います。

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柳本  プロも使う高機能なヘアアイロンなのに、これだけデザインがいいなんて素晴らしいですよ。しかも取り回しがしやすいので、これから縮毛矯正を始めようという美容師にも薦めたいですね。ヘアアイロンは人肌の近くで施術するので、やっぱり始めは怖いんです。だからこそ、安心できる道具を選んで欲しい。取り回しの悪いヘアアイロンは、例えるなら慣れていない車を運転しているようなもの。手足のように操れなければ、安心して街を走れませんよね。同様に、ヘアアイロンも自分の手の延長として使える方がいいに決まっています。縮毛矯正はリスクがある施術だからこそ、取り回ししやすい道具をつかうことが安心感につながるし、技術不足による失敗も減るでしょう。それは美容院ヘアサロンに通うお客さんにとっても大きなメリットですよね。

鈴木  柳本さんは言葉の端々に道具に対するこだわりが溢れていますが、それはなぜですか?

柳本  僕はいつでも、最高の道具を使うことにしています。「初心者だから、このくらいの道具でいいかな……」という考えだと、実際に施術が上手くいかなかったときの原因が、自分の腕にあるのか、道具にあるのかが不明瞭になる。でも最高の道具なら、失敗の原因が自分にあるとわかる。問題点に気づくには、最高の道具を使うのが一番の近道なのです。

鈴木  この「BI-G1」は、プロ用として開発しましたが、一般向けとしても販売します。ユーザーが“最高の道具”を手に入れるメリットはありますか?

柳本  もちろんですよ。ヘアアイロンは量販店でも購入できますが、プレートの滑りが良いものが多い。しかしそれはすなわち毛が逃げやすいので、カールやスタイリング、ケアをしにくいということでもある。その点「BI-G1」は適切な引っ掛かりがあるので、毛が逃げにくくて髪型を作りやすい。だからヘアアイロンに慣れた人なら、十分に使いこなせるでしょう。また縮毛矯正は2~3か月たつと髪の根元が伸びてうねり始めますが「BI-G1」なら、根元まで攻められるのでケアしやすいですよ。

鈴木  美容師のためのプロの道具として開発したヘアアイロン「BI-G1」ですが、その性能や取り回しやすさによって、くせ毛というコンプレックスを解消する手助けになるなら嬉しいですね。柳本さん、今回は本当にありがとうございました。

縮毛矯正のプロも認めるアイロンについて

柳本 剛|TSUYOSHI YANAGIMOTO
柳本 剛|TSUYOSHI YANAGIMOTO
Lily 代表

1985年、徳島県出身。都内のヘアサロン2店舗で計6年間の勤務を経て独立。フリーランスの美容師としてキャリアを積み、2014年の11月に東京・表参道に「Lily」をオープン。「くせ毛・縮毛矯正の匠」として髪質やダメージに悩む女性たちから圧倒的な支持を得ている。

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