HOMESCAPE06

A Small Garden

植物のようにつながるインテリア

name | Yusuke Takeuchi
occupation | Interior Stylist
home | Tokyo, Japan
lived here since | 2017
house size | 40m2
nearest park | Yoyogi Park
inspiration | Dieter Rams

Five years ago, interior stylist Yusuke Takeuchi moved into a 50-year-old vintage apartment in Shibuya. The original tiles on the floor were removed and painted a seemingly inorganic gray color, to allow a variety of materials such as glass, wood, fabric, and metal to coexist without worrying about the compatibility between furniture and flooring.

インテリアスタイリストの竹内優介さんは5年前、築50年ほどのヴィンテージマンションの一室に引っ越した。
部屋の基調となる床のタイルカーペットを剥がして、ペンキで無機質なグレーに塗ったのは、家具と床の
相性を気にせず、ガラス、ウッド、ファブリック、メタルなどの多様な素材を共存させるため。

As an interior stylist, Yusuke spends his work time surrounded by a wide variety of furniture and household items. At home, the colors white and gray help bring his mind to a relaxed state. The light coming in from the three large windows surrounding the room is softened by lace curtains.

インテリアスタイリストという仕事柄、いつも家具や生活雑貨に囲まれ、視覚的にさまざまな情報をキャッチしている自身の意識を白紙に戻せるように、色味は白とグレーにまとめた。部屋を囲む3つの大きな 窓から差し込む光は、レースカーテンで柔らかい光に。

cado’s focus on color and texture means that four different products can fit all together in one room. The PETAL aroma diffuser attached to the wall on the left sprays fragrance, the STEM humidifier by the bed maintains a comfortable level of humidity, and the LEAF air purifier on the right cleans dust. Clean air is circulated by STREAM, which swings its head in the middle of the room. The room may seem stoic, with Yusuke’s collection of favourite items, but it is organically colored with plants, art and fragrances such as incense and candles.

色や質感にこだわるカドーの製品は、ワンルームに4種類が同居しても馴染む。左側の壁に付けたアロマディフューザーの〈PETAL〉が香りを噴霧し、ベッドの足元の加湿器〈STEM 630i〉は湿度を快適に保ち、右側の空気清浄機〈LEAF 320〉は埃やハウスダストを浄化。部屋の中央で首を振る〈STREAM 1800〉でクリーンな空気を循環させる。お気に入りだけが集められた部屋はストイックな印象にも思えるけれど、植物やアート、お香やキャンドルといったフレグランスで有機的に色づけられていく。

Yusuke Takeuchi

Born in 1993. While studying architecture at university, Yusuke was trained under interior stylist Mitsuko Kuroda. With a style that mixes modern elegance with quirky interior design, Yusuke often works as a set designer for magazines, advertising, and also directs exhibition spaces for retail shops and events. The renovation of his own home was DIY, and it took about six months to complete with the help of friends and acquaintances.

1993年生まれ。大学で建築を学ぶ傍ら、知人の誘いでインテリアスタイリストの黒田美津子さんの現場を手伝ったことがきっかけになり師事。モダンな品格のなかに、ひとクセあるインテリアを織り混ぜるスタイルで、現在は雑誌でのスタイリングや家具の紹介をはじめ、広告制作、ショップやイベントなどの空間演出を手がける。自宅の改装は、友人や知人の手を借りながら約半年かけて完成させた。

Self-built Closet

If there’s anything you want to hide, conceal it in a nice way. This is Yusuke’s basic rule to avoid giving the compact one-room apartment an oppressive feeling. The closet is fitted vertically with three hanger poles to improve storage efficiency. The wardrobe, organized behind the blinds, contains white, black, gray T-shirts and standard items like denim. Shirts and outerwear are grouped in the entrance, so they can be selected according to the mood of the day.

隠すところは、潔く隠す。コンパクトなワンルームの空間に圧迫感を与えないための基本ルール。 押し入れには3本のハンガーポールを縦に取り付けて収納効率をアップ。ブラインドの内側に整理されたワードローブは、白・黒・グレーのTシャツにデニムといったスタンダードなボトムス類。シャツやアウターは玄関前にまとめて、日々の動線に沿って洋服を選べるように設計した。

Accessories For Space

Yusuke has created a functional room by adding his own touches to the space, but there are also objects scattered throughout the room that do not have a function. Although the room appears unified and refined throughout, the unique knick-knacks add rich detail to the space. A non-negotiable guideline in the selection of items and building materials: do not choose fake materials.

空間に自ら手を加え、機能的な部屋を作り出した竹内さんだが、部屋の至る所に機能を持たないオブジェが点在する。全体に統一感があり、洗練された部屋に見えるものの、ユニークな小物たちが豊かな細部となって空間を彩る。アイテムや建材などの選定で譲れない指針は、フェイクの素材を選ばないこと。

White Cotton Curtains

Cotton-layered lace curtains hide the refrigerator, microwave, sink and household items. The one-room layout means that a variety of equipment and interior design elements coexist in a single room, but one can visually switch between them by simply pulling back the curtains.

コットンを重ねたレースカーテンは、冷蔵庫や電子レンジ、水回りや生活用品を隠す。ワンルームのため、さまざまな役割の設備やインテリアがひとつの部屋に同居するが、カーテンを引くだけで視覚的に切り替えができる。

product name | LEAF 320
size | φ242mm × h652mm
weight | 6.4kg
room size | ~42m²
maximum airflow | 360m3/h
sound level | Min: 30 dBA (Low) / Max: 60 dBA (Rapid)
color | white  

Less is More

Life in a one-room apartment is not only about sleeping and eating: it is characterized by a continuum of activities, such as watching a movie on the sofa. The LEAF 320, with its matte-textured white colour that discreetly blends in with the space, quickly absorbs and filters the dust created from people’s movements from 360°. The high-performance filter not only removes harmful substances such as pollen and mould, but also features a self-cleaning function for a long service life.

ワンルームでの生活は、睡眠や食事だけでなく、ソファで映画を楽しむひとときなど、暮らしの動作が連続していくのが特徴。 マットな質感のホワイトカラーが控えめに空間に寄り添う〈LEAF 320〉は、人の動きで舞い上がったホコリを360度全面からスピーディに吸い上げてろ過。高性能フィルターは花粉やカビといった有害物質を除去するだけでなく、セルフクリーニング機能を搭載して長寿命化を実現している。

product name | PETAL
size | w291mm × d93mm × h174mm
weight | 2.4kg
spray level adjustment | 30 levels
color | cool gray

Designing Optimal Atmosphere

Scented items such as incense, candles, and room sprays are all unique in terms of their fragrance duration and the way they spread and linger in the space. While lighting a candle or spraying a space can sometimes bring a refreshing change, the PETAL aroma diffuser can automatically renew a space thanks to its two bottles of original fragrances, and a customizable spray pattern for each time of the day, or each day of the week. The scent spreads at a rhythm that suits one’s lifestyle. The device is battery-powered and can be placed anywhere in the room.

お香やキャンドル、ルームスプレーといった香りものには、香りの持続時間や空間への広がり方や残り方にそれぞれ個性がある。火を灯す、空間にシュッと吹きかけることなど、そんな動作が気持ちの切り替えになることもあるが、アロマディフューザーの〈PETAL〉は自動で空間を演出する。2本のオリジナルリキッドをセッティングして曜日や時間ごとに噴霧のパターンを設定すれば、自分に合ったリズムで香りが広がる。バッテリー搭載だから、コンセントに影響されずレイアウトフリー。

product name | STEM 630i
size | φ270mm × h855mmm
weight | 4.3kg
water fill | 2.3ℓ
room size | ~27m²
color | white, cool gray, black premium

Efficient Humidifer

Although renovated, Yusuke’s house is located in a vintage condominium that is over 50 years old. The air-conditioning system is old and needs some maintenance in the cold and dry winter season. The STEM 630i humidifier, which sprays micro-mist surprisingly powerfully for its delicate, sleek form, has a minimalist design and is easy to maintain, with no hard-to-wipe areas. The “white dust” caused by the calcium component of tap water (a drawback unique to ultrasonic humidifiers), can be reduced to 99% or more by regularly replacing the dedicated cartridge.

アイデアに満ちたリノベーションで綺麗な室内に仕上げているが、住まいは築50年を超えるヴィンテージマンションの一室。備え付けの空調設備は古く、寒く、乾燥する冬場には工夫が必要だそう。すっと伸びる繊細なフォルムにしては意外なほど、パワフルにマイクロミストを噴霧する加湿器〈STEM 630i〉。徹底的に無駄を省いたデザインで、拭き取りづらい箇所がなくメンテナンスしやすい。超音波式特有の難点でもある水道水のカルシウム成分によるホワイトダストの発生は専用のカートリッジを定期的に交換すれば99%以上※が抑制される。 *自社測定方法による付属カートリッジのカルシウム除去能力試験。 (CT-C620による実施)

product name | STREAM 1800
size | w276mm × d237–276mm × h323–330mm weight | 3.6kg
room size | ~52m²
color | white, cool gray

Eliminating Bacteria

cado’s STREAM 1800 circulator circulates clean and moist air with a plant-derived fragrance. Its dual fan structure delivers a powerful straight airflow and delivers low-concentration ozone that sanitizes the air, creating a flow within the room while keeping the space clean. Not only does it improve the efficiency of heating and cooling, but it also counteracts household odours after cooking and deodorizes and dries laundry in the bathroom. Thanks to its compact size, it can be placed on a shelf or in a bay window, and can fit in any space.

植物由来の香りを乗せ、クリーンかつ潤った空気を循環させるのがサーキュレーターの〈STREAM 1800〉。直進性の高い風をつくりだすファンと、除菌を行う低濃度のオゾンを送り出す2種類のファン構造で、室内に流れをつくりながら空間を清潔に保つ。 冷暖房の効率を上げるだけでなく、料理をした後の生活臭の対策や、バスルームで洗濯物を干す時には消臭乾燥を実現。コンパクトなサイズは棚の上や出窓に置くこともできて、レイアウトの自由度は高い。

HOW PRODUCTS EVOLVED 04
Notes from Nature

私たちの製品には、植物の器官の名前が付いているものがあります。
大気中に酸素を与える植物は、空気環境にアプローチをする
私たちが目指すべき存在です。
周辺の環境を察知してたくましく生きる植物の知恵とは。
READ STORY

「空気をデザインする」。これは私たちのブランドアイデンティティを表現するフレーズですが、地球上でずっと昔から空気を整えてきたものがあります。それは植物です。

 植物は、光と水、二酸化炭素さえあれば光合成を行って、自らの生命にとって必要な養分をつくりだします。そして、副産物ともいえる酸素を大気中に放出し、私たち動物はここまで生きることができました。植物は、酸素を必要とするさまざまな生物の生命の営みを安定化させているのです。

 また、自ら有機物を生成し、それを草食動物が食べ、さらに肉食動物、そして、それを分解する生物へと繋がっていく食物連鎖の基盤となっているのも植物です。この地球上の多細胞生物の99%は植物であるとも言われていて、それに比べて、私たち人間を含む動物は地球上に存在する生物の割合のなかでちっぽけな存在です。

 カドーの製品のいくつかのカテゴリーには、植物の器官の名前がついています。除湿機は〈ROOT〉、加湿器は〈STEM〉、空気清浄機は〈LEAF〉、アロマディフューザーは〈PETAL〉。順に、根、茎、葉、花を意味しています。これは、それぞれの器官が担っている機能と、製品の特性を重ね合わせているためです。

 空気中に含まれる水分を吸い取って快適な湿度のバランスを保つ〈ROOT〉。部屋全体にやわらかな潤いを広げていく〈STEM〉。1枚の葉が日差しをあびて新鮮な酸素を空気中に届けるように〈LEAF〉は空間に美しい空気を届けます。〈PETAL〉は花が咲いているときの鮮やかな色合いのように、空間に香りという彩りを与えます。

私たちは、植物の造形や、細部にいたるまで抜かりなく連携をしあっているその機能性をリスペクトしてきました。またそれだけでなく、風にそよぐ葉を見て気持ちが癒されたり、花の色彩や造形の美しさが空間に与える影響にも、カドーの製品の目指すべきところがあるのです。

 植物は、ただ、芽を出して花を咲かせて葉を落とす、というサイクルを行っているだけではなく、光を受けるために体の向きを変えたり、触れると閉じるオジギソウに分かりやすく現れるような五感にも似た感覚を持っているようです。

 また、植物が行う会話や、彼らが持っている知性についての研究も進んでいます。たとえば、葉を虫に食べられたときには虫が好まない味に変える化学物質を作り出したり、また、危険信号を空気中に放って周囲の仲間に危険を知らせたり、その虫をさらに捕食する虫を誘い出す物質を放ったりしてサバイバルしています。つまり、植物は、土に根を固定して動くことさえしないものの、だからこそ周辺の環境に機敏に反応し、独自のコミュニティをつくりだし、その環境を巧みに利用して生きているのです。

 カドーの製品のラインナップも植物にならい、水や光、そして仲間の植物や虫と関係し合いながら豊かな生態系を生み出したい。単機能の製品同士が部屋のなかで共存したとき、お互いの長所を高めあっていくようなサイクルを生み出していくのが、今後の課題です。

HOW PRODUCTS EVOLVED 05
Atmospheric Interaction

カドーは2020年に呼吸を整える「空気のサプリメント」として、
アロマディフューザー〈PETAL〉と、そのソフトである
オリジナルリキッド〈Atmos.〉を開発しました。
心地よい香りで呼吸の質を高めて、植物の力で健康を促進し、心にも作用する空気を生み出す提案です。

原料調達とオリジナルブレンドの効果研究を行なった
アネルズあづささん、そして、香りのコンセプトの立案から
オリジナルリキッドの調香までをトータルに監修した
川野菜穂さんに、香りがどのように人体に影響するのか、
また、香りを活用した空間のしつらえについて聞きました。
READ STORY

脳にダイレクトに伝わる香りのメカニズム。 医学博士 アネルズあづさ

人の暮らしと香りの歴史は、古代エジプト時代までさかのぼります。当時の香油などがミイラの保存、そしてクレオパトラも活用していたKyphi(キフィ)など、高貴な地位の人々のアイテムとして使われ、生活に寄り添っていたことがヒエログラフに残されています。

 1937年になると“アロマテラピー”という言葉がフランスの科学者によって初めて提唱されました。  ちなみに、“アロマテラピー”は仏語、“アロマセラピー”は英語です。国によって、アロマセラピーの定義や規制は異なりますが、日本で主流をなしているのは英国の方法です。それに即して考えると、アロマセラピーは医療や治療ではないものの、それに付随する補完療法であり、ホリスティックとして、予防と改善を考えたケアだと定義されています。つまり、1つの原因に対処するために香りを活用するのではなく、精神や身体、そして環境が関係しあう有機的な存在として人を捉え、包括的なケアをするという考え方です。

 では、どのようなメカニズムで、香りは人に働きかけるのでしょうか。まず、鼻の嗅覚受容器が芳香分子をキャッチし、嗅球という器官を通して、本能的な脳の働きをする大脳辺縁系そして視床下部に伝達されます。また、呼吸で肺に取り込まれた吸気から、微量に血流へ取り込まれる経路でも作用します。つまり、嗅覚は、阻むものなくダイレクトに脳へ伝わる感覚なのです。

 私たちが暮らす現代社会は、急速にデジタル化が発展していますよね。これほどまで視覚的にデジタルのデバイスが溢れていると、あたかも、私たちの感覚が発達したかのような誤解を生じさせることがありますが、人間の身体や感覚は急速に進化するものではなく、個人差もあります。  さまざまな要因があるなかでも、このズレによって記憶や情動をつかさどる大脳辺縁系や、自律神経やホルモンバランスをコントロールする視床下部が混乱し、継続的なメンタルの不調和を生じさせている可能性があるのです。

 そこで、私たちが常に必要としている呼吸をはじめ、嗅覚から脳への伝達を行い、普段私たちが意識できないホメオスタシス(恒常性)に関わる部分に、芳香療法として香りを感じ、同時に呼吸を促すことで良い影響をもたらそうとするのがアロマセラピーです。

 香りは目に見えない空気を通して鼻へ到達し、私たちの脳へと伝達されます。その働きは古くから私たちの“健康”を守るために役立ってきました。実際に、認知症のケアや産前産後、分娩時の女性や、虐待を受けた子どもたちのケアも行われています。私自身も、香りは人々の生活に寄り添うかたちで発展していくと確信していますが、実は嗅ぐ側である人間がどのように香りを嗅覚で捉えているかという研究はまだ浅く、五感のなかでも最も理解できていない分野です。

 そして、私たちは、全員が同じ嗅覚受容体を持っているのではなく、同じ香りとして捉えているわけはではない、ということは確認しておきたいと思います。その感じ方や捉え方は、環境や時間、体調によって実際に千差万別であることが明確になってきています。香りは、“香りを感じる人”がさまざまにいるからこそ効果があるものです。もし、香りを感じる人がそこにいなければ、香りを演出する理由も存在しません。そして、香りを媒介する身の回りの空気は、私たちが生きるためにまず大切な“呼吸”を行うために欠かせないもの。つまり、心身の健康を支える根本的な環境が“空気”です。

 香りのある空間を“心地よい”と感じるからこそ人は“呼吸”を意識できます。嗅ぐという行為によって呼吸が促進されるのです。それぞれが心地よいと感じる環境や体調によって、作用は違って良い、という前提をふまえたうえで、香りはサプリメントとして働くことが期待できるのだと思います。

アネルズあづさ

医学博士、グローバル・オーガニック・フォーミュレーター、プロフェッショナルアロマセラピスト、クリニカルマタニティアロマセラピスト、自律神経バランスアロマセラピープロフェッショナル。株式会社Blue ink代表取締役。英国に3年半留学し、Institute of Traditional Herbal Medicine and Aromatherapy卒業、その後専門的に妊産婦とベビーの補完療法を習得し2000年に会社設立。妊産婦ケアアロマセラピーを初めて日本で学問化し、医療従事者や一般向けの講座を行う一方、著名人や企業、ハリウッド映画『パフューム』の専属フォーミュレーターに選ばれるなど、精油ブレンディングの第一人者として活躍する。


植物の生命力を把握して空間に処方する。 エッセンシャルオイル・フォーミュレーター 川野菜穂

香りを意味するperfume(パフューム)の語源は“煙を通して”という意味に由来します。歴史を辿れば紀元前から、人は寒さをしのぐために木材を燃やして暖を取っていたところ、体調が改善されていくのを感じていました。そして、天に昇っていく煙を眺めて、天と地を結ぶ香りを神の恵みだと神格化したといいます。

 こうした流れから香りと宗教の結びつきは強く、イエス・キリストの誕生にも金と同等の価値で樹脂が献上されていますし、現代でも宗教行事で香りを焚く慣習が残っていますよね。

 植物との結びつきは、香りを通してだけではなく、昭和の日本で打ち身ができたらアロエで冷やし、喉が痛めば生姜湯を飲んで、冬の寒さにそなえて柚子湯に入るなど、植物の生命力を活かしていました。こうした里山暮らしの知恵や植物療法は、今の都市生活では活用するのが難しいかもしれませんが、現代の日常のなかで“植物とともに暮らす”とはどういうことか。どういったかたちがあるのか。“心地よい香りを作る”にとどまらず“植物の力を把握して空間に処方する”。これがアロマセラピーだと私は思っています。

 香りを拡げるときに重要なことは、芳香濃度です。和食をイメージしてもらえれば分かりやすいと思いますが、日本人は繊細な味や香りを楽しむのが得意ですよね。逆に、味や香りが強すぎると不調に転じてしまうと思います。海外では強い香水が日常に浸透している一方で、苦手な日本人は多いです。そんな日本人だからこそ、天然植物の生命力を100%楽しめるエッセンシャルオイルを、ほのかに、心地いい濃度で楽しむのが大切だと考えています。

 香りの選び方ですが、日本では勉強熱心な方が多いため、アロマを始めようと思うと、書籍やブレンドメッセージを読み込む方も多くいらっしゃいます。しかし、必ずしも文面通りでないことを知っておきましょう。

アロマセラピーに関する文献のほとんどは海外書籍の和訳が多いのですが、欧米人と日本人では身体のつくりが違います。ですから、書籍の記載は参考にしながらも、自分にとって必要な香りは、ぜひ、自らの嗅覚を信じてください。自分の心身の状態や、欲する香りは自分が一番理解しており、正しくサインを送ってくれているのです。

 天然香料か人工的な香りかは、目的によって選びましょう。人工香料は香りが残りやすいです。だからこそ、香水など残り香を纏いたいときにはおすすめです。

 植物の生命力そのものである天然香料は、香りを楽しみながら心身のケアを目指したいときに選ぶのがいいと考えています。人工的な香りと比べて天然香料は揮発性があるので香りは残りにくいのですが、自然な香り同士が手を結び“馴染む”という点ではメリットであり、暮らしに取り入れやすいポイントです。たとえば、お花屋さんには、様々な種類の植物があるけれど、気持ちが悪い香り! とはなりませんよね。

 この2、3年のあいだ、私たちは環境が変わることなく、自ら切り替えていく難しさを経験しました。ひとつ屋根の下で、食事をとり団欒を囲み仕事をして子育てをする。

 香りは、モードやアクションの切り替えを助けてくれます。次のアクションへと切り替えるとき、一拍置いて呼吸を整える。環境は変わらなくても空気を変える。次なる自分をサポートする空気に切り替える。集中力を高める空気や、集中からリラックスへと切り替える空気にしつらえる。空気に香りがあるのとないのでは、私たちの心身に与える影響が違ってきます。もちろん、香りがなくても暮らせますが、それがあることによって生活の質は大きく異なるということなのです。

川野菜穂

エッセンシャルオイル・フォーミュレーター、アロマセラピーライフスタイリスト。ア・テール株式会社・代表。アロマセラピーの学びから、解剖学・化学・心理・環境・カウンセリングやコーチングを行い、心と身体に働きかける調香をしながら「かおりのあるくらし」の啓蒙に努める。嗅覚特性を生かしたプロモーション提案・アロマ空間デザイン・アロマプロダクトの企画開発・パーソナルセッションなど多岐にわたって活動している。