HOMESCAPE03

Morning Talks

「そういえば、昨日どうだった?」

name | Mayu Kakihata & Takanori Yamaguchi
occupation | Music Selector (Mayu),
PR agent (Takanori)
home | Tokyo, Japan
bathroom space | 12m²
wake-up time | 08:00am (weekday),
10:00am (weekend)
action | drying hair, brushing teeth,
make-up, hair styling

Takanori and Mayu hang their stick-type hair dryer from the ceiling, “like the hanging microphones you sometimes see in music videos.” The hands-free system provides a new sense of ease in drying: every morning, it’s grooming time.

「ミュージックビデオでたまに見かける、吊り下げマイクみたいな感じで」とスティック型のヘアドライヤーをバスルームの天井にぶら下げている貴紀さんと真由さん。ハンズフリーは新感覚の乾かしやすさで、毎朝の身だしなみの時間がユーモラスなひとときに。

Takanori works for a fashion PR agency and meets many people every day as part of his job, so he is very careful about his appearance. On mornings when time is short, he sometimes wears a hat, but he is more enthusiastic when he can style his hair. He blow-dries his hair with a detachable curling brush attached to the stick-type hair dryer. Thanks to the high airflow, Takanori can make his all-back hair style in a snap.

ファッションのPRエージェンシーに務める貴紀さんは職業柄、毎日たくさんの人と会うので、身だしなみにも気を遣う。時間がない朝は帽子をかぶって仕事に出かけることもあるが、髪をセットできると気合いも入る。
付け外し可能なカールブラシをつけてブローをすれば、いつものオールバックのスタイルが大風量でぱぱっと仕上がる。

Music has always been part of their life. Not only do they share a favorite genre, but also a commitment to listening to analog rather than digital music. They have professional-level equipment at home, like those usually used in music studios and clubs, and own more than 2,000 vinyls. As Takanori says, “Mayu plays the music in this house.” Indeed, Mayu provides a subtle yet accurate selection of music that accompanies the mood every morning.

ふたりのあいだにはいつも音楽があった。好きなジャンルはもちろん、デジタルではなくアナログで聴きたい、というこだわりも一致した。自宅にはスタジオやクラブで使うようなプロ仕様の機材を設置し、レコードは2000枚以上所有。「音楽は真由がかけてくれるんで」と貴紀さんが言うようにミュージックセレクターの真由さんのさりげなくも的確な選曲が毎朝の気分に寄り添う。

The two of them like to travel when they have time. On this day, they had just returned from Miyazaki Prefecture, and their duffel bags were waiting to be unpacked. Incidentally, “T/M” are the initials of Takanori and Mayu’s first names, a kind of proof of shared ownership.

時間が合えば旅行に出かけるというふたり。この日も宮崎県から帰ってきたばかりで、ダッフルバッグも荷ほどきを待っているところだった。ちなみに“T/M”は、貴紀さんと真由さんの名前のイニシャルで共有の証のようなもの。







Takanori and Mayu just got married. One is an office worker, the other a music selector who sometimes works until the wee hours of the morning, and although they have different rhythms in their lives, the time in front of the mirror where they dry their hair, brush their teeth, put on some make-up… is also a place for them to communicate, asking each other: “How was your day yesterday?”

結婚したばかりの貴紀さんと真由さん。一方は会社員で、もう一方は早朝まで仕事をすることもあるミュージックセレクター。ふたりの生活のリズムは異なるけれど、髪を乾かしたり歯ブラシをしたり、メイクをしたりと身だしなみを整える鏡の前は、「昨日はどうだった?」とお互いの近況をシェアするコミュニケーションの場となっている。

Mayu Kakihata

Mayu first encountered analog records when she was in junior high school. She began working part-time at record store Disk Union when she was a sophomore in high school. Currently, she works as a music selector, focusing on soul, funk, and rare groove.

中学生の頃にアナログレコードに出会い、高校2年生でレコードショップ「ディスクユニオン」でアルバイトを始める。現在はソウル、ファンク、レアグルーヴを中心に、ミュージックセレクターとして活躍する。

Takanori Yamaguchi

Takanori, who works in PR for domestic and international fashion and cosmetic brands at Attaché de Presse, is also active as a DJ under the nickname “Tee.” Recently, Takanori has been crazy about driving and enjoys taking road trips in Japan with Mayu and their friends.

アタッシュドプレスで国内外のファッションやコスメティックのPRを手がけつつ、“Tee”の愛称でDJとしても活動する山口貴紀さん。最近は車の運転に夢中で、真由さんや友達とドライブで行く国内旅行を楽しんでいる。

Hair Products

Pimaru is the name of the cockatiel perched on Mayu’s arm (also on page 034). The crowned feathers extending from his head and his red cheeks are his charm points. He is very friendly and mild-mannered, so he is sometimes let free to fly over the room. His favorite place is on Takanori’s head or shoulder.

よく見ると発見できるのは、真由さんの腕に止まったオカメインコの“ピー丸”。 頭部からぴょんと伸びた冠羽と赤いほっぺがチャームポイント。とても人懐っこく性格は温厚なため、部屋で放し飼いにすることも。お気に入りの場所は貴紀さんの頭か肩の上。

Family Interactions

Pimaru is the name of the cockatiel perched on Mayu’s arm (also on page 034). The crowned feathers extending from his head and his red cheeks are his charm points. He is very friendly and mild-mannered, so he is sometimes let free to fly over the room. His favorite place is on Takanori’s head or shoulder.

よく見ると発見できるのは、真由さんの腕に止まったオカメインコの“ピー丸”。 頭部からぴょんと伸びた冠羽と赤いほっぺがチャームポイント。とても人懐っこく性格は温厚なため、部屋で放し飼いにすることも。お気に入りの場所は貴紀さんの頭か肩の上。

product name | baton
size | φ38.5mm × ℓ277mm
weight | 298g
cord length | 1.7m
accessories | curl brush, mobile pouch
color | silver, white

Cylindrical-shaped Hair Dryer

This stick-type dryer combines top of the class airflow for a home-use dryer with a light weight of only 298g, which does not tire the arms even after long hours of use. The shape makes it easy to dry even the back of the head, and allows hands-free use without taking up too much space, by hanging it from the ceiling or on the wall, as Mayu and Takanori do in their bathroom. The compact shape and light weight make it extremely portable, and Takanori and Mayu find it useful when traveling. Their favourite period-style inns are very classic, from the amenities to the facilities. Stays in such “tasteful” inns are made comfortable with this dryer.

長い時間使用しても腕が疲れにくいわずか約298gの軽さでありながら、家庭用ヘアドライヤーとしては業界トップクラスの風量を兼ね備えたスティック型のヘアドライヤー〈baton(バトン)〉。この形状によって、乾かしにくい後頭部の生え際も簡単に乾かせるほか、天井からぶら下げたり壁掛けにすることで空間に圧迫感を与えず、ハンズフリーでの使用が可能になる。コンパクトな形状と軽さゆえに携帯性が抜群で、貴紀さんや真由さんは旅先でも重宝している。ふたりが好きな時代を感じる旅館は、アメニティや設備までちゃんとクラシック。そんな“味”がある宿に泊まるときも、これがあれば快適だそう。

HOW PRODUCTS EVOLVED 01
A Fine Balance

カドーは、製品の機構を担う古賀宣行と、デザインを担う鈴木健のふたりが設立した家電ベンチャー。
ものづくりの指針である「(技術+美)×心=cado」という方程式に表されるように、
両者の経験が掛け合わさり、ときにぶつかり合いながら、スペックとデザインが磨かれていきます。
最新製品となるスティック型ヘアドライヤー≪baton(バトン)≫の
商品開発プロセスについてのインタビューを通して、
ふたりが大切にしているものづくりの流儀を紐解きます。
READ STORY

職人であり続ける覚悟 代表取締社長 古賀宣行

圧倒的な技術力とそれを活かす美しいかたち。このふたつを備えたプロダクトを目指してきたカドーを率いるのが、代表取締役社長・古賀宣行。大学卒業後、1980年にソニーへ入社。機械設計者として歴代ウォークマンの開発に携わり、2010年に退社したのちにカドーをスタートした。

開発する製品を自ら徹底的に使い込み、ユーザーの視点で製品仕様を煮詰める一方、技術面においては、分析的な視点を軸にエンジニアと協力し、革新的な取組みを追求してきた職人気質の古賀。自らをオープンな状態に保ち、外部の意見を受け入れる姿勢も大切にしているのだという。

「たとえば、外部の企業からちょっとした技術やサービスの売り込みがあった場合でも、まずは話を聞くようにしています。売り込まれているものが今は必要なくても、その場でポロッと出た話が後々のカドーの商品開発に活かされることが稀にある。だから、聞いて損はない。人と人の偶然の会話がニーズに気づくきっかけになったり、改善点の発見につながることがあるんです。スティック形状のヘアドライヤーである〈baton〉も、きっかけのひとつは家族や友人の言葉。旅行中に小型かつ高性能で、軽くて持ち運びしやすいヘアドライヤーがあったら嬉しいという意見が、特に女性の間で多かった。旅行先の宿で使うヘアドライヤーの性能に大きな不満を抱いていることを彼女たちとの会話で知りました」  

〈baton〉は、メカニズムの観点から見ると、実は空気清浄機と構造が似ている。ファンモーターで空気を吸い込み、ドライヤーの場合はヒーターで熱を加えて出す。できるだけロスなく風を出せば、風量は強力になる。古賀はソニーでも携帯性(モビリティ)を特徴とするプロダクトを開発しており、ノウハウが存分に発揮された。

「携帯性を突き詰めたとき、デザイナーの鈴木から、スティック形状のアイデアが出ました。そこで、握りやすい棒状のものとして頭に浮かんだのが、陸上競技で使う“バトン”でした。国際陸上連盟公認のバトンのサイズは外形が39mmで長さは290mm。握ってみると、細すぎず太すぎず力もいれやすい。しっくりくるんですよ」

 最終的に、外形を38.5mmに収めることができたのは、素材にアルミ合金を採用したことがポイントになった。一般的にドライヤーの筐体にはプラスティックが使われるが、強度や成形性の面で金属に比べて2mm前後厚くなってしまう。そこで、少なくとも日本においては前例がない、アルミ合金を採用することにチャレンジした。

 〈baton〉だけでなく、カドー製品の多くに金属が使われている。この素材選びには、金属の持つ高級感だけではなく、お客様に長くいつまでも美しい外観のままカドー製品を愛用して頂きたいという古賀や鈴木の想いが込められているのだ。 「〈baton〉の商品化における一番の課題は、わずか38.5mmの円筒の中にぎっしり詰まった部品のあいだを、いかにロスを少なくして、大量の空気を流すかということでした。吸気口から排気口までのあいだに存在するいくつもの空気抵抗の部分、いわゆる“ボトルネック”を見つけては、それをひとつずつ潰していく。そういったアナログ的で泥臭い作業を何度も何度も辛抱強く繰り返すことで、何とか目標を達成することができたのです。カドーでは、いいデザインは当たり前。技術があって当たり前。その融合の先に、我々がこだわる、心のこもったものづくりがあると考えています」

 さらに、ボトルネックを潰していくアプローチは、ものづくりのチーム体制についても言えると古賀は語る。
「会社の規模が大きくなるとどうしても分業化が進み、各組織の間にいわゆるボトルネックが生まれてしまう。その結果、商品開発のスピードや商品力に大きな影響が出てしまいます。私は鈴木と組んでカドーを立ち上げる時に、商品企画からデザイン、設計、製造、販売まで一貫して風通しの良い組織を作ることを目指しました。そのために、組織はできるだけ小さくして、我々自身が、お客様を身近に感じながら商品開発を行えるよう心がけています。今後カドーが大きく成長した際にも、この“Small is beautiful”のコンセプトは大事にしていきたいと思っています」


ひたすら立体に向き合う時間 取締役副社長/クリエイティブディレクター 鈴木健

「絶対に自分を信用しないようにしています。かたちに酔って、あれが新しいこれが新しいと判断をするのではなく、暮らしのなかでどれだけ使い勝手がよく、周囲の空気まで凛とした佇まいに変える製品ができるか。僕がカドーで大切にしているのは、この一点に尽きます」

 カドーの副社長であり、全プロダクトのデザインとブランドディレクションを担う鈴木健は、1996年に東芝に入社し家電や情報機器のデザインを担当。アマダナのデザイナーを経て、2011年に古賀宣行とともにカドーを設立した。

 同年、自身が代表を務めるデザイン会社アエテをスタートし、意匠的な意味でのデザインに限らず、家電以外の幅広いジャンルを横断して、フラットな視点でユーザーとアイデアをつなぐ動線作りを行なってきた。 「デザイン家電と聞くと、表面的にはかっこいいけど、機能性はそこそこというイメージを持たれることが多いですよね。それを書き換えていくのがカドーなんだと思います。職人のような思考でものづくりを進めていく古賀と手を組み、互いにせめぎ合ってものづくりをすることで、確かな性能とデザインの融合を目指しています」

 カドーが最初に取り組んだ美容機器は、2018年に発売を開始したノーズレスドライヤー〈cadocuaura〉。室内に置くのではなく、日々手で使う「道具」を開発するにあって、その最初の一歩は、プロの美容師にヒアリングを行い課題点をリサーチすることだった。

 まず、既存のドライヤーにあったノーズ部分が重心の偏りを引き起こし、手首に負担を加えていると知った。また、自身で頭の後ろ側を乾かすときに、どうしても頭から手元が離れるため、長時間乾かすと腕がどっと疲れる無理のある角度になってしまう。

 さらに、L字型は限られた洗面スペースでの収納性にも難があった。それならば、ノーズをなくそう。そうして生まれたのがアルファベットのPのフォルム。斬新なフォルムを目指したのではなく、あくまでも使い勝手を突き詰めていった先に生まれたかたちだった。このロジックをさらに押し進め、携帯性によりフォーカスしていったとき、スティック形状の〈baton〉が誕生した。

「30個以上は、3Dプリンターでモックを作ったと思います。重心にブレがないかをチェックし、手と一体化するバランスになるまで試行錯誤しました。僕は立体にしてからのブラッシュアップに時間をかけるんですよね。時間を置いてかたちを見直します。これだ! と気分が高まっているときだけではなく、さまざまな気持ちでチェックして、それでもいいと思えるものを最終的によしとしているんです」

 金属という素材にもこだわりがある。深絞り加工を採用することで継ぎ目が出ず、すっと手に馴染む。落としてしまったとしても頑丈で、長く愛用してもプラスチックにありがちな色褪せがない。暮らしのなかでどうしても付いてしまう傷は、劣化ではなく“味”になる。電源をつけていなくても、そこにあるだけで気持ちがいいということにもカドーはこだわり続けてきた。

「製品そのものだけではなく、その製品を通じたユーザーの体験に、どんな感動を添えられるのかを重視したいんです。金属は他の製品でもよく使っていますね。汚れたから買い換えるというサイクルではなく、メンテナンスがしやすく、外観が保たれる素材にこだわることで、それが愛着につながり、家電とのサスティナブルな関係が築かれていくと思うので」

さらに鈴木が見据えるのは、ただ便利に使えればいい、というだけではない。使う人がそれぞれに持っている“自分らしさ”に寄り添えるものになるのかという視点でも自身のデザイン案をふるいにかけている。使いやすいのは当たり前。自分らしく生きたいと思い、こだわりを持って物を選ぶ人の琴線に触れる美しいものづくりを心がけてきた。

「今、キャンプがブームなのかユーチューブでギアについてのレビュー動画がよく出ています。面白いのでよく見ちゃうんです。ひとつの機能に特化した道具が出てきて、それをいろんな視点で解説している。そこに表れるものこそ、使う人目線のこだわりです。ゴルフやテニスなど、道具を必要とするスポーツにも物へのこだわりがよく表れますよね。そういう動画をいろいろと見ていると、人っていうのは、自分の身体が拡張された感覚になれる道具に飢えているのかもしれないな、と思ったりもします。きっと、自分の手にしっくりくる道具との出会いって本能的な快感や、深い安心感に通じているんじゃないかなと思うんです」


腕が疲れない重心設計を追求するために、何度も作成された3Dのモックアップ。

旅行や出張時に小さなカバンの隅に収まる圧倒的なポータビリティと、洗面台スペースにすっと馴染む大きさ。そして、握りやすさや物としての佇まいを検証するため立体に起こす工程は必要不可欠だった。毎日出しっぱなしにしておいても美しく感じられるプロダクトを目指して、手で触れ、社内で意見を交わしながら理想の形へと近づける。

業界初のスティック型ドライヤーは、コンパクトでありながら大風量。
ドライヤー下部には超軽量かつパワフルなカドーHSDCモーターを内蔵し、独自に開発したハニカムベントで効率的に送風する。リレー競技用バトンに近い直径38.5mmのアルミ合金ボディはとても握りやすく、手に吸い付くような感覚をもたらす。
ノンツイスト機構を搭載してコード部分は360度回転。コードがねじれて絡まってしまうわずらわしさを解消した。

「絵を描くことは昔から好き」と話すデザイナーの鈴木。製品の方向性が見えた段階で、スケッチを描き出してアイデアを練る。古賀とともに機構との兼ね合いを検討して3Dモックに立体化。鈴木は平面上でデザインの最終判断をすることは少ない。平面で描いたときに美しさを感じていても、立体にすると課題点が浮かび上がることも多く、空間のなかでの佇まいや、手に触れる立体としての完成度を大切にしている。

バトンを思わせる円柱型になる以前のスケッチ。グリップしやすく、洗面台に置いた際に安定する形状として、初期段階で三角形が考案された。
このスケッチではハニカムベントを備えた空気の取り入れ口は、機体の
背に大きく開けられている。しかし、室内に置く空調家電とは違い、手で握って使用するという点を重視し、持った時に吸気口の存在を気にせずに使用ができるよう最小限に抑えることが求められた。